デラウェアを口にする度に あの時の顔が。
東京ペット葬儀 慈恵院 事務局へ
読者 小川和歌子さんより 季刊誌
慈恵に 投稿をいただきましたので
ご紹介をさせて戴きます。
デラウェア
青梅市 小川 和歌子
ハッピ-が この世を去ったのは、今から
3年前の10月だった。家の中に居たはずの
ハッピ-が、ちょっとした隙に 外へ出て
しまったのだ。その結果、大通りで
軽自動車に 撥ねられて、数日後に 息を
引き取った。ハッピ-の 犬種は もこもこ
した茶色の毛をもつ ゴ-ルデンレトリ-バ-
である。この犬種は とても おっとり
していると 有名なのだが、彼女は 気性の
荒い 性格だった。家に置いてある
あらゆる家具を 鋭利な 牙で 暇さえ
あれば、ゴリゴリ削る。散歩に行く時は
リ-ドを 嚙みながら、先陣を切って
進んでいく。同犬種、同性の 先代の
ハッピ-に比べて、優雅さの かけらもない
犬だった。だが 私は 自由奔放な ハッピ-
が大好きだった。過去に2頭 犬を飼った
ことがあるが、やはり一番愛したのが、
この ハッピ-だった。
散歩に行けば 猫や鶏を 追いかけ、
路線沿いを歩けば、電車が 走り去る
音を 聞いて 興奮して 走り出す。
色んな表情を披露する ハッピ-が
愛らしかった。中でも 印象深かったのは、
食に関して。彼女の小さな頃から、私が
好きな果物を 買ってきては あげていた。
もちろん消化の良い ものだけを 選抜して
スイカやデラウェア、りんご等。その中でも
一番 ハッピ-との 思い出が 詰まっている
のが デラウェアだ。私はデラウェアの皮を
剥き、手に乗せて ハッピ-に あげていた。
すると ハッピ-は 長い舌ベロで 何度も
何度も 実が なくなっても、デラウェアの
味が残る 私の手を なめ続けた。
「もうないよ!」と ハッピ-の目の前に
大きく 手を開くと、彼女は ペロンッと
なめて やっと 諦めた。その やり取りが
私は 楽しかった。ハッピ-も 同じように
感じていた。デラウェアの あげ方を
見ていた 父が言った。「皮を剥くこと
ないし、食器におけば?」その食べ方が
日課となっていたので、父に言われるまでは
実践しようとも 思わなかった。いざ、
皮つきで 食器に おくことを 実践した。
すると 食器に 置かれた デラウエアを
見た途端、ハッピ-の 動きが 少し止まって、
ギロッと こちらを 見たのである。
口に運ぶと、もごもご させながら 何粒かの
実の皮を ペッと 吐いたのである。
食べ終えたハッピ-は、ウフッと 鼻を
膨らまして、ブゥゥと 顔を下げて 寝て
しまったのである。それ以来、私はハッピ-の
デラウエアの 食べ方は、完全に固定化された。
私が せっせと 皮を剥いて、皿に乗せる。
実だけとなった デラウエアを 手に乗せて、
ハッピ-へ献上する。ハッピ-はペロンと
なめて、喉を鳴らす。そして汁の残る私の
手をなめ続けて、手の感覚が麻痺するまで
なめる。ハッピ-が 亡くなって 3年が
経った。デラウエアを 口にする度に、
あの時の ハッピ-の 顔が 浮かぶ。
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